フォーカスグループの重要性とベストプラクティス

フォーカスグループの重要性とベストプラクティス

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例えば、ドライブに出かける時、私達は明確な目的(観光、 友達に会う、 引っ越し など)を持ったうえで、それに応じた目的地までの経路や手段を選択します。市場調査の場合も同様です。現在のビジネス課題とその解決に必要な情報を明らかにしたうえで、適切な調査方法を選択する必要があります。例えば、新規市場の優先順位付け、 製品ロードマップの作成、 ターゲット購買層の特定、 消費者行動の把握、 メッセージの改善など、さまざまな課題が考えられます。

一次調査と二次調査のどちらを使用するかは、目的によって異なります。二次調査では、業界誌、公開されている調査データ、プロバイダーが発行している資料など、既存の情報を利用します。市場調査や競合調査では二次調査が中心となりますが、ターゲットユーザーの把握が目的の場合はあまり役に立ちません。一方、一次調査は新しいデータを作成します。対象市場での消費者行動、製品やサービスの訴求力向上に必要な要因、キャンペーンコンセプトへの反応など、顧客への深い洞察に基づいて意思決定を行う場合に有効です。

 

定性調査と定量調査

一次調査には、「定量調査」と「定性調査」の2種類があります。定量調査では、通常、多数のユーザーを対象にアンケートを実施して、大規模なデータを収集します(例:最近のフライトについて尋ねる航空会社のアンケートや政党支持率調査など)。 あらかじめ決められた方法で行われ、質問は直接的、かつ選択肢の中から回答を選ぶ方法が一般的です。市場、製品の機能、メッセージのコンセプトなどについて改善方法を明らかにするために現状を検証したり、すでに用意されている新製品やサービスをテストしたりする場合に適しています。

一方、定性調査では、調査対象についてより興味深い知見が得られます。実施方法には、ディスカッション、日記調査、エスノグラフィ(行動観察調査)などがあります。サンプル数は少なく特定のグループが対象となりますが、質問の自由度が比較的高く、反復性が高いことも大きな特長です。定性調査は、対象者の考え方、ふるまい、コンセプトへの反応、行動の論理的根拠を探索する場合に適しています。

基本的に、定量調査では「何を」を明らかにし、定性調査では「なぜ」を追究します。

 

フォーカスグループについて

定性調査では、個人またはグループを対象にインタビューを行います。その際、調査目的に合わせて、特定の属性や行動特性を持つ対象者が選定されます。フォーカスグループは最少2人(2人一組)、最大12人の対象者で構成されますが、通常は4~8人で構成されます。一人ひとりに自分の体験や感想を発言する機会を与え、グループ全体としてさまざまな意見を引き出せるような人数で実施することが重要です。

通常、フォーカスグループのインタビュー時間は1.5~2時間です。この時間内に、熟練したモデレーターがさまざまな質問をしながら、多数のアジェンダやディスカッションを進めていく必要があります。優れたモデレーターは異なるタイプの人々を同時に管理することにも長けています。各自の性格を見極め、特定の参加者に発言が偏らないように配慮しつつ、全員から意見を聞き出すこともモデレーターの役割です。

近年まで、フォーカスグループは、専用の調査会場(マジックミラーが設置されたモニタリングルールなど)で対面で行われることがほとんどでしたが、最近では、ビデオ会議を利用してリモートで実施されることも増えてきました。この傾向は以前から見られましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって拍車がかかりました。

 

フォーカスグループの特徴

フォーカスグループでは、参加者に質問をして回答を得るだけでなく、参加者どうしの意見交換を促すことが重要です。活発な情報交換を通じて、明確な目標にまではたどり着かないとしても、合意を形成したり、意見が分かれる点を特定したり、他の参加者のアイデアをもとに新たな解決策や改善方法を見出したりできることが理想です。 参加者どうしが互いの気持ちを尊重し、違いを認め、「なぜそのように感じるか」を自分の言葉で説明します。フォーカスグループでは、鎮痛剤の投与や財政的対立などのデリケートなピックを取り上げる場合もありますが、1人の参加者が勇気を出して発言すると、他の参加者も発言しやすくなります。

視覚情報重要性  参加者が言葉で伝える意見に加え、自然に出る表情やボディランゲージも貴重な手がかりになります。

リアルタイムのやり取り  ディスカッションの様子をリアルタイムで観察できるため、フォローアップや新しい質問をモデレーターに直接指示できます。さらに、参加者の意見を聞きながら、得られたフィードバックの影響や効果についてその場で話し合うことも可能です。

比較が可能  通常、フォーカスグループは、さまざまなステークホルダーの実態に注目するよう設計されます。例えば、企業向け製品の場合は、ターゲットとする業種の異なるバイヤーを選定して複数のグループを設けます。消費者向け製品の場合は、年齢層で分けてに複数のグループを設定します。

 

フォーカスグループの種類

通常、フォーカスグループは、次の3つのうちいずれかの調査目標に合わせて構成されます。

  • 経験:このタイプのセッションは、聞き取りと探求が中心となります。 参加者の考えや行動を把握し、製品を知った過程、比較検討方法、購入または使用に至った経緯を明らかにします。新規市場を検討している場合や、まだ把握していない新しい顧客セグメントへのアプローチを目指している場合に、このタイプのフォーカスグループを実施します。
  • ワークショップ:このフォーカスグループでは、新機能を追加する、新しいソリューションを考える、訴求力のあるメッセージを作成するなど、参加者に何らかの課題が与えられます。これらのワークショップは、ユーザーがソリューションを活用する方法を確認したり、ブランドに対するユーザーの印象を調査したりする際に役立ちます。
  • テスト:特定のテスト環境で、さまざまなコンセプト(製品のアイデア、ブランド名とロゴ、キャンペーン、キャッチフレーズ、広告、ウェブサイト、配信媒体、価格モデルなど)を評価できます。

これらのアプローチは併用が可能です。たとえば、同じフォーカスグループに対して、これまでの経験について質問すると同時に、コンセプトに関する質問をして反応を確認できます。

 

フォーカスグループのベストプラクティス

どのタイプのフォーカスグループを実行する場合でも、以下のベストプラクティスが、費やす労力と費用を最大限に生かすための役に立つでしょう。

  • 人数を制限する:少人数のグループの方が互いに打ち解けやすく、率直な意見を聞ける可能性が高くなります。また、少人数のグループでは1人あたりの発言時間も増えます。例えば、セッション時間が2時間の場合、4人グループでは1人あたり30分の発言時間が確保できますが、8人グループでは15分しか発言できません。
  • シンプルを心がける:招集したグループからできるだけ多くの情報を得ようと、つい1回のセッションに多数のトピックを盛り込みたくなりますが、これは大きな間違いです。次々に話題を変えて質問をすると、一つひとつのトピックを深く掘り下げることができません。重要な項目に絞り込んで質問することで、各トピックについての理解が深まります。フォーカスグループという名前のとおり、「絞り込む(フォーカスする)」ことが重要です。
  • 先入観を排除する:回答を誘導することなく、特に制約を設けずに質問をして、相手が自分の言葉で自由に回答できるようにします。例えば、「このコンセプトの最も良い点は何でしょうか?」ではなく、「このコンセプトについて、あなたの考えをお聞かせください」と質問します。
  • 透明性を維持する:セッションを録画すること、ディスカッションの様子をモニタリングすることを、事前に参加者に知らせてください。また、参加者の正直で率直な意見が求められていることも知らせる必要があります。スポンサーが必要としているのは、スポンサーに迎合した回答ではなく、参加者の率直な感想です。
  • 楽しい時間を演出する:少なくとも参加者にとって魅力的なフォーカスグループになるようにしましょう。 常に明るい雰囲気を心がけ、必要であればユーモアで場を和ませます。

フォーカスグループは、対象ユーザーの行動を探り、ニーズや好みを明らかにできる有益な調査手法です。特に、ユーザーのフィードバックに基づいてビジネス上の意思決定を行う必要がある場合、定量調査に先立って、有効な調査手法としてフォーカスグループをご検討ください。


スティーブ・ウルフ氏について

経験豊富な市場リサーチャー兼マーケティング戦略コンサルタントであるスティーブ・ウルフ氏は、この20年、金融、ヘルスケア、教育、テクノロジー、小売りの各業界で重要な調査業務やコンサルティング業務を手がけてきました。実施した定性インタビューは1,000件を超え、250以上のフォーカスグループでモデレーターを務め、多数のクライアントワークショップでファシリテーターを務めています。さらに、市場環境評価から、競合分析、業界「ビーコン」、最新のイノベーション、顧客プロフィールまで、多数の二次調査も手がけています。

スティーブ氏は経験豊富なマーケティング戦略コンサルタントでもあります。専門分野は、市場参入分析、ブランドポジショニング開発、対象セグメントのアクティベーション、マルチチャネル戦略、キャンペーン計画、カスタマーエクスペリエンスの向上と多岐に渡ります。2012年にWolfWorksを設立する前は、ワシントンDCを拠点とする2つの調査・コンサルティング会社でエンゲージメントを担当していました。それ以前は、トヨタの戦略プランニンググループでeコマースを分析。代理店Interbrandでブランド名の開発とリサーチを手がけ、Wenner Mediaでは消費者マーケティングとセールスを担当していました。ノースカロライナ大学(Kenan-Flaglerビジネススクール)でJenretteフェローとしてMBAを取得。

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