産業オートメーションにおけるロボティクス
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産業用ロボットは、古くから自動車や電子機器など様々な業界で活用されてきましたが、現在では急成長する倉庫およびロジスティクス市場においても不可欠な存在となっています。そして、これらのシステムには人工知能(AI)が搭載されるようになり、経験から学習し、より「賢く」、より効率的に繰り返し作業を行うことができるロボットが登場しています。この急速に発展する市場を理解するために、GLGはJerry Osborn氏(元KUKA Robotics社長、元ABBロボットオートメーション担当ゼネラルマネージャー)に最近の動向と傾向についてお話を伺いました。以下、対談の一部を抜粋してご紹介します。
現在のロボティクス市場の概要、主要プレイヤー、差別化についてお聞かせください。
主要プレイヤー、いわゆるビッグ4は、ファナック、ABB、安川電機、KUKAの4社です。しかし、協働ロボット市場においては、ユニバーサルロボットが圧倒的な優位にあります。自動車やその他の産業用オートメーションといった伝統的な市場では、ユニバーサルロボットが約60%の市場シェアを占めています。また、川崎、COMAU、NACHIなどの中小企業も大きな役割を果たしています。川崎は、特にトヨタとの関係から自動車業界での存在を強めています。COMAUはフィアット・クライスラーと強い関係を持っていますが、特に主要なプレーヤーではありません。NACHIはやや端役的な存在です。
自動車に次いで大きな市場であるエレクトロニクス市場では、伝統的な市場には参入していないプレーヤーもいます。三菱、ストーブリ、エプソン、デンソーなどです。これらの企業は、小規模なエレクトロニクス市場やアセンブリ市場に参入しています。市場全体としては、今は少し不透明な時期です。昨年は成長予測で市場が少し落ち込みましたが、これは一時的なものだと考えられます。新型コロナウイルス感染症拡大の影響でかなり不透明な状況にありますが、一時的なものであると予想されており、オートメーションやロボティクス市場全体は非常に良好な状態にあります。
業界のM&Aについて、どのようにお考えですか?また、どこに焦点を当てることができると思いますか?
2つのカテゴリーに分けてお話しします。1つ目はロボティクス企業自体、2つ目はシステムインテグレーターです。ロボティクスというと、自動車メーカーなど大規模なブランケットオーダー以外は、ロボットのOEMメーカーに直接発注することはあまりありません。通常、システムインテグレーターを通じて発注します。そのため、システムインテグレーション市場は、過去2年間にいくつかの統合が行われました。米国にJRオートメーションという非常に大きなシステムインテグレーターがあります。JRオートメーションは、小規模なシステムインテグレーターを何社も買収し、市場シェアを拡大しました。
昨年、JRオートメーションは日立に買収されました。また、従来はシステムインテグレーションを手がけていなかった企業も、その市場に参入しています。テラダインはユニバーサルロボットを買収し、さらにモバイルインダストリアルロボットという会社も買収しました。今後も、システムインテグレーションとロボティクスの両方で、その傾向は続くと思われます。
ロボティクスでは、AI企業や独自の安全技術を持つ企業、スタートアップでロボットメーカーにとって価値のある独自のイノベーティブな技術を持つ企業など、新興技術に重きを置くことになるかと思います。
産業オートメーションの各セグメントについて、概要を教えてください。
自動車は最大の市場であり、比較的安定しています。成熟した市場であるだけに、ある程度の成長は見込めますが、そのスピードは他より遅い傾向にあります。ウェアハウジングやロジスティクスは非常に急速に成長しており、ロボットの新しい用途を開拓しています。それらの施設には、協働ロボットや自律型移動ロボットが入り始めています。また、ロボットそのものではなくても、こうした場面でAIが本格的に普及し始めたことで、ロボットが作業をする中で情報を学習し、より賢く、効率的になることができます。
エレクトロニクスは別の市場です。例えば、製品ライフサイクルは自動車よりもはるかに短いです。自動車の製品ライフサイクルは7年かもしれませんが、エレクトロニクスの製品ライフサイクルは6か月かもしれません。スマートフォンやタブレットを思い浮かべてください。エレクトロニクス市場の課題のひとつは、生産ラインを自動化するための設備投資がかなり高額になることです。そして、半年後や1年後に製品が変更された場合、自動車業界で一般的に行われているように、生産ライン全体を取り壊すのではなく、同じオートメーションを使えるようにすることが課題となってきます。
病院やヘルスケアも大きな市場です。紫外線を使って手術室や病室を消毒するロボットを作っているUVDという会社は、新型コロナウイルスの影響で狂乱状態に陥っています。ヘルスケア市場は爆発的に拡大するでしょう。手術用ロボットは昔からありますが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」のように昔からあるものは、本当のロボットではありません。医師が手術をするときは、医師がロボットを完全にコントロールしています。しかし、現在では、医師の監視のもと、ロボット自体が独立して動作するようなアプリケーションも出てきています。これらは今後も増えていくでしょう。
その他に、この分野に影響を与えるような新しい動向や進行中だと思われるイノベーションはありますか?
コラボレーション市場には脅威があると思います。どんなロボットでも「コラボレーション」 できるようにする技術が開発されています。VEOという会社は、あらゆる産業用ロボットに適用できる、安全装置なしで使用できる技術を開発しました。この技術は、ロボットの作業スペースに入る人を監視するセンサーを使用することで実現されています。人が近づくと減速し、さらに停止することも可能です。この技術が承認されれば、従来の産業用ロボットは、より速く動き、より大きな可搬重量を運ぶことができることに加えて、工場内の設置面積の縮小や、周囲で働く人々の安全確保が実現できるため、協働ロボットにとって多少の脅威となる可能性があります。
繰り返しになりますが、もう1つのイノベーションは、特に倉庫業におけるAIでしょう。「反復学習」という言葉がありますが、これはロボットをプログラムし、タスクを実行しながら、より良い方法を学習していくことを意味します。これは今、倉庫市場で広く使われています。ロボットが棚から何かを取るとき、さまざまな商品がどこにあるかを学習します。注文を受けると、どのような順序で倉庫に入るのが最適か、また、どのように製品を探し、より効率的に目的地まで運ぶかを理解することができるのです。
Jerry Osborn氏について
ロボット工学、産業用オートメーション、先進製造業において、さまざまな産業や応用分野で30年以上の経験を持つ、経験豊富な経営者・アドバイザー。前職は、3軸および5軸マシニングセンタの設計と製造において業界をリードする米国のメーカー、Diversified Machine Systemsの最高執行責任者。それ以前は、ファクトリーオートメーション向け産業用ロボットソリューションのリーディングサプライヤーであるKUKA Robotics Corporationの社長を歴任。また、キャリアの初期にはABBのゼネラルマネージャーとして、自動車OEMやティア1メーカー、多様な一般産業向けに産業用ロボットやファクトリーオートメーションシステムを納入するビジネスユニットの管理を担当。また、インテリジェントマシンビジョンとロボットビジョンソフトウェアの分野のリーダーであるブレインテックのインダストリアルユニットの社長も歴任。
本記事は、2020年3月27日に開催されたGLGテレカンファレンス「産業オートメーションにおけるロボティクス」から引用したものです。カンファレンスへのアクセス、またはJerry Osborn氏やGLG有識者とのインタビューをご希望の方は、こちらからご連絡ください。
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