ESG投資の成長軌跡のマッピング

ESG投資の成長軌跡のマッピング

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持続可能性への配慮や社会・環境・ガバナンス(ESG)に関わる問題は、長年にわたり隅に追いやられていましたが、今や投資についての主流の考え方にしっかりと組み込まれています。ESG投資の方向性を探るため、GLGの財務分析イベントチームのJackie Murphyは、Impact CubedのCEOで、元モーニングスターのサステナビリティ担当でもあるLibby Bernick氏とテレカンファレンスを実施しました。Bernick氏はモーニングスターで、指数、信用格付け、デジタルプラットフォーム、ファンダメンタルズ調査など、様々な投資商品にESGと気候分析を統合する戦略を主導していました。以下、対談の内容をわかりやすく編集して掲載します。

資本市場におけるESG導入の現状について、どのようにお考えですか?

私は約25年間この分野に携わっていますが、この5年間は驚異的な成長を遂げています。しかし、ESGはまだ黎明期に過ぎません。ESGの話題は尽きませんが、ESGとは何かについてはまだ混乱があり、資本市場や商品市場に完全に導入され統合されるまでにはかなりの時間がかかると思われます。株式市場でさえも、世界の地域によって大きなばらつきがあります

ESG評価には多くのデータがありますが、企業のESGパフォーマンスを評価する際に特に重要なデータポイントや無形要素は何だと思われますか?

私たちが時間をかけて学んだことは、ESGリスクを評価する際に、産業分野や地域によって、ある指標が他の指標よりも重要であるということです。例えば、食品・飲料メーカーは、プロフェッショナルサービス企業よりも、水の使用に関連性と重要性を見出すでしょう。サステナビリティ会計基準審議会(SASB)はマテリアリティマップを示しており、どのデータポイントが産業部門にとって意味があるのか、あるいは潜在的に重要なのかを理解するための良い出発点となっています。つまり、炭素や気候関連のリスクは、セクターを問わず、すべての企業にとって考慮すべき非常に重要なものとなってきています。また、データセキュリティや多様性、公平性、包括性に関しても、新たに策定しなければならない方針が数多く存在します。

ESGレーティング(格付け)の現状について、どのようにお考えですか?

企業が開示するESGデータと、その企業データを基にサードパーティが作成する主観的なESGレーティングの違いを理解することが重要です。ESGレーティングは過去数年で大幅に改善され、透明性が高まり、進化を続けています。一時期は、ESGレーティングがブラックボックス化していることが懸念されていました。一部のESG評価者は、データや手法の透明性を高めるための措置をとっています。また、セクターによって特定の問題の関連性や重要性の高さが異なることも認識しています。

ESG評価に残された課題として、主観性と古い情報が挙げられます。企業が開示するデータは少なくとも1年前のものである可能性があり、四半期ごとに提供される財務データとESG情報を並べて比較することは非常に困難です。大多数の企業は、環境・社会パフォーマンスデータを開示していません。そのため、ESGレーティングの多くは推定値や業界平均値に基づいています。さらに、ESGレーティングは基本的に数百のデータポイントの平均を集計したものであり、極端な高低は平均化されています。投資家はESGレーティングから企業の全体像を把握できない可能性があり、ファンドや原証券に関する客観的なデータを入手することが重要になります。

これらの問題はどの程度深刻なのでしょうか?

企業のESG報告フレームワークに一貫性がないことが問題です。これは、資本市場全体でESGの導入を拡大し、主流化するための障害となっています。一貫したグローバルな要件がないため、企業は報告する内容を選ぶことができます。ほとんどの企業は定量的なデータを報告していませんが、それは変わりつつあります。基準設定主体や規制当局は、企業によるデータの標準化を進めており、一部の証券取引所は上場企業に対して標準的な方法で報告するよう求めています。

しかし、企業による標準化されたデータがあったとしても、ESGパフォーマンスを評価する方法が統一されていると期待するのは非現実的です。企業の財務パフォーマンスを評価する何百もの指標(例えば、マージン、PER、運転資本)があるように、 投資家がESGパフォーマンスを評価する方法は数多くあります。例えば、Impact Cubedは客観的なESGデータを提供し、資産運用会社はそれを使って企業のESGパフォーマンスや影響について独自の専門家による評価や見解を作成します。

投資家や企業などは、ESGレーティングについてどのような疑問を持つべきでしょうか?

ここでは、いくつかの重要な質問をご紹介します。

まず、ESGレーティングの根拠は何でしょう?レーティングは、ESGリスクにどの程度さらされているかを評価しているのでしょうか?それとも、企業がどの程度リスクを管理しているかを評価しているのでしょうか?それとも、企業がどれだけポジティブな環境・社会的利益を生み出しているかを評価するデータなのでしょうか?特定のレーティングの様々な目的を理解することが重要です。

次に、業種間でレーティングの比較は可能でしょうか?例えば、テクノロジー企業がA+を獲得した場合、A+を獲得した金属・鉱業の企業は同じ尺度で評価されているのでしょうか?業種を超えて比較可能なレーティングもあれば、そうでないものもあります。

最後に、対象企業がどの程度の情報を開示しているかを把握することが重要です。企業が情報を開示していない場合、その不足している情報はどのように見積もられているのでしょうか?データギャップがある場合は、ESG評価機関がどのようにそのギャップを埋めているかを知ることが重要です。

ESG投資の成功を測定・報告するためのベストプラクティスについて、どのようにお考えですか?

私の考えるベストプラクティスは、ESGに関するストーリーはデータによって裏付けされる必要があるということです。そのためには、2つのことが必要です。1つ目は、環境、社会、ガバナンスの問題が事業戦略や収益モデルにどのように、そしてなぜ関連しているのかを説明できることです。2つ目は、ESGパフォーマンスに関する確かなデータでそれを裏付けることです。データとストーリーの両方が必要ですが、これが欠けていることが多いのです。ESGパフォーマンスは、財務パフォーマンスのリスクとリターンとともに評価される必要があります。


Libby Bernick氏について

過去25年にわたり、企業や投資家が気候やESG、持続可能性に関する投資リスクを理解するための支援に取り組んできた。現在は、英国に拠点を置き、より持続可能なポートフォリオを構築するためのESG分析と投資を提供するImpact CubedのCEOを務めている。Impact Cubed入社前は、モーニングスターでサステナビリティ責任者を務め、同社の全事業にESGを取り込む役割を担っていた。それ以前は、S&Pグローバルのマネージングディレクターとして、気候・環境・社会的要因の財務的影響を投資家が理解できるようなESGデータの作成と商品化を担当。また、Trucost(2016年にS&Pグローバルが買収)でシニアヴァイスプレジデントとして北米ビジネスユニットを担当した経験を持つ。現在は、コモディティ生産者やトレーダーに定量的で追跡可能なESGデータを提供するQuotientと、リスクに関する資産レベルのインサイトを強化する地理空間ESGデータを作成するRS Metricsのアドバイザリーボードメンバーでもある。

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