なぜ水素はすべてを解決できないのか

なぜ水素はすべてを解決できないのか

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水素燃料は、いくつかの製品にクリーンなエネルギーを供給し、産業全体を脱炭素化する能力を持つ魅力的な技術です。しかし、このガスは万能ではなく、コストやインフラの欠如など、普及にはいくつかの課題があります。このテーマをより深く掘り下げるため、GLGアドバイザーであり、ITM Powerの元技術開発マネージャーであるクリス・ハイド博士をお招きしてテレカンファレンスを開催いたしました。以下は、テレカンファレンスの内容の抜粋です。


水素およびその種類(ブルー水素、グレー水素、グリーン水素など)について教えていただけますか?

水素は、二酸化炭素を排出しないクリーンな燃料です。かなり反応性が高いので、純粋な気体として環境中に存在することはありません。水素が必要な場合は、水素を作る必要があります。主には次の3種類があります。

グレー水素は、水素の中で最も一般的なものです。年間約7700万トンのグレー水素が製造されています。化石燃料である天然ガス中のメタンを分解することで製造され、その抽出過程で二酸化炭素が排出されます。

ブルー水素はグレー水素と似ていますが、二酸化炭素の回収と貯留を行うため、汚染性は低いです。しかし、製造コストが高く、排出された二酸化炭素の何パーセントが地中に封じ込まれたままになるのかという疑問があります。毎年約100万トンが製造されています。

グリーン水素は、最も環境に優しい水素ですが、製造コストが最も高い水素です。技術の進歩や市場に出回っている製品の改良により、その製造量は近年増加しています。毎年わずか10万トンしか製造されていません。

全体として、水素はまだ化石燃料に対してコスト競争力がありません。将来的に水素が主要な燃料になる可能性はありますが、その実現性については不確実性が残っています。

 

グリーン水素が商業的に実用化されることに対する障壁と、現在欧州を覆うエネルギー価格危機がそれを悪化させているのかどうかについてお話しいただけますか?

電気分解のコストが、水素の燃料としての普及の大きな障壁となっています。電気分解には多くの電力が必要であり、近年は電気料金が上昇しています。そのため、電気分解のコストがより高くなっているのです。

もうひとつの障壁は、インフラが整っていないことです。水素の補給ステーションも少なく、水素を輸送するためのパイプラインも整備されていません。

電気分解の効率を高め、電気分解の動力源に再生可能エネルギーを利用することで、製造コストを削減することは可能です。政府や民間企業は、水素の製造や流通のためのインフラ整備に関心を向ける必要があるでしょう。

水素の安全性への懸念は、新技術の開発や水素に関する一般市民への教育活動によって対処する必要があります。

これらの課題を解決できれば、水素は将来的に主要な燃料となる可能性を秘めています。クリーンで汎用性が高く、豊富な燃料である水素は、化石燃料への依存を減らすのに役立つ可能性があります。

 

どのセクターがすでに水素を化石燃料の代替として導入しているのか(例えば鉄鋼セクターなど)、また、それらのプロジェクトは現在どのように進んでいるのかお話しいただけますか?

「グリーン水素が我々の方向性だ」とはっきり言っている業界やセクターはまずありません。しかし、製造コスト、インフラの不足、水素にまつわる安全性の懸念があるにもかかわらず、いくつかの業界は水素を利用しています。

多くのプロジェクトは、自動車、バス、トラック、鉄道などの燃料補給に水素がどのように利用できるかを示すための、実証目的で行われています。工業的には、アンモニア製造に水素が利用されており、このセクターからの大規模な受注もあります。

鉄鋼生産と石油精製にも水素が利用されています。石油精製業界には脱炭素化の目標があり、水素はその追求に役立つもので、特にグリーン水素が有効です。

それから、天然ガスの代替品として水素を直接利用することもあります。しかし、それらはほとんどが水素を使った小規模な実証プロジェクトです。

 

状況によっては水素を家庭の暖房に使うべきと考えるか、ヒートポンプなどの代替手段がある以上、それは水素の実用的な使い方ではないと考えるか、ご意見をお聞かせいただけますか?

可能性はありますが、まず解決すべきはコストの問題です。

水素は住宅の暖房に使えますが、現状では天然ガスより高価です。水素を天然ガスに混ぜて、既存のガスボイラーで使うこともできますが、水素の輸送や流通のためのインフラがまだ整っていません。

ヒートポンプは、従来のガスボイラーよりも効率的に住宅を暖めることができます。しかし、床暖房などの暖房設備が必要になるほか、電力網がヒートポンプによる電力需要の増加に対応できない可能性があります。

ヒートポンプも水素も、家庭の暖房に伴う二酸化炭素排出量を削減する可能性を持っています。しかし、これらの技術が主流になるには、まだいくつかの課題があります。

 

今後水素を採用する可能性のある新たなセクターは何だとお考えですか?また鉄道や航空宇宙業界など、輸送に水素を利用することに関心は寄せられていますか?

水素は輸送用の燃料として期待されていますが、現状では電池よりも高価です。水素はバスや鉄道などの大型車両に適しており、電池は自動車やバイクなどの小型車両に適しています。

多くの都市では、クリーンエアゾーンを導入し、大型のディーゼル車を走らせることができないようにしていますが、それはまさに水素に適した車両サイズです。クリーンエアゾーンの導入は、建設現場で問題になっています。

鉄道も水素を利用できる輸送機関の1つです。現在、大きなディーゼルエンジンを積んだ機関車が、クリーンエアゾーンを導入している都市を通っています。電気という選択肢もありますが、鉄道の電化には莫大なコストがかかります。電化中の路線や数年後に電化する予定の路線に、水素を燃料とした列車を走らせるという需要が存在しています。

水素は、特に液化した場合、船舶の燃料となる可能性を持っています。そして、国際海事機関(IMO)は現在、船舶からの排出量削減目標を導入しています。

 


クリス・ハイド博士について

クリス・ハイド博士は、英国における水素市場の第一人者であり、この分野で20年以上の経験を有している。現在、Hollingworth Designのディレクター、European Marine Energy Centre(EMEC)のコンサルタント、自身のコンサルティング会社であるHYDErogenのディレクターを務めている。以前は、ITM Powerで技術開発マネージャーを務めていた。そこで、ITMが新たに開発した膜やセルを燃料電池や電解槽の実証実験に使用し、その後、製品として市場に送り出す役割を担った。


この記事は、GLGテレカンファレンス 「水素:2023年の需要と用途」からの抜粋です。テレカンファレンス全文のトランスクリプトは、GLGライブラリーのご購読でご覧いただけます。また、クリス・ハイド博士や、その他の業界の有識者へのインタビューも実施可能です。お気軽にお問い合わせください。


テレカンファレンス中に聞いた、その他の質問

  • 水素およびその種類(ブルー水素、グレー水素、グリーン水素など)について教えていただけますか?
  • ブルー水素、グレー水素、グリーン水素の世界的な製造量について、もう少し詳しく教えていただけますか?
  • グリーン水素が商業的に実用化されることに対する障壁と、現在欧州を覆うエネルギー価格危機がそれを悪化させているのかどうかについてお話しいただけますか?
  • どのセクターがすでに水素を化石燃料の代替として導入しているのか(例えば鉄鋼セクターなど)、また、それらのプロジェクトは現在どのように進んでいるのか、お話いただけますか?
  • 状況によっては水素を家庭の暖房に使うべきと考えるか、ヒートポンプなどの代替手段がある以上、それは水素の実用的な使い方ではないと考えるか、ご意見をお聞かせいただけますか?
  • 異なる種類の電解水素技術について、もう少し詳しく教えていただけますか?
  • 今後水素を採用する可能性のある新たなセクターは何だとお考えですか?また鉄道や航空宇宙業界など、輸送に水素を利用することに関心は寄せられていますか?
  • 参加者の皆さんへの締めの挨拶をお願い致します。

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