【インタビュー記事】回答者:ダン・アダムズ氏、AIM Institute社 創業者兼社長、GLGアドバイザー
まず、ご自身が考える「インサイト」の定義を教えてください。
私が考えているインサイトとは、「実際の行動につながる情報」です。それには、「なるほど」と思わせる要素が付随しています。本当にパワフルなインサイトは、そう簡単には見極められません。ただ観察さえすれば見えてくるものではないからです。インサイトを活用すれば、自分を取り巻く環境の見方が変わります。価値ある何かを生み出せそうなものや、新製品、新規性のあるメッセージ、斬新なアドバイスなど、改善につながる何かに気付かせてくれるのがインサイトです。この点を踏まえてインサイトを表現すると、「新規性」「実行可能性」「価値」の3語がキーワードになるでしょうか。
既に触れていただいた内容となりますが、新たなニュアンスが得られるかもしれないので念のためお伺いします。「情報」と「インサイト」の違いを説明していただけますか?
情報そのものに価値はありません。実際の行動につながらないからです。情報だけが手元にあっても、そこから先には進めません。情報は、単独で人に働きかけるものではないからです。とはいえ、情報にポテンシャルはあります。情報は、土にまいて水をやる前の種のようなものです。まだ生命が吹き込まれていません。人が情報に目を通し、実際に考えたり評価したりすることで初めて、情報に意味や文脈が備わり、実行に落とし込める形態となります。この段階で、情報はインサイトに進化したと言えます。
「情報」は疑う気持ちを持って取り扱うべきだと思いますか?
そうですね、疑う姿勢は必要でしょう。その正当性を問う必要もあります。情報をインサイトへ進化させるには、それなりの作業が必要です。しかし、そう簡単にはできません。興味深いことに、情報からインサイトへの変換を自分の得意分野で実行した人は、その内容を活用して今まで以上に効果的かつ効率的に作業を進められるようになります。変換作業を通して知識の引き出しが増えるからでしょう。情報をインサイトへと変換する作業に取り組めば取り組むほど、この作業が得意になるわけです。好循環ですね。
ご紹介したい例があります。私達は、B2B顧客へのインタビュー方法についてクライアントに長年アドバイスを提供しています。そのため、新しい方法論(本日の話題に当てはめると「情報」に位置付けられます)が紹介された場合、私はその方法論をすぐにフィルタリングしてB2Bに適しているかどうかを判断します。つまり、その方法論はB2B向きなのか、B2C向きなのかを判断する、ということです。こうして、疑う気持ちを忘れずに新しい方法論(新しい情報)を評価しているわけです。私は、B2Bによくある問題や強み、有効なアクションや無効なアクションを理解しています。この理解は、自分が長年にわたってこの分野の情報をインサイトへと変換してきたからに他なりません。
課題に取り組んだり、問題を解決したりする際に、外部からのインサイトを要したケースを教えてください。
はい。私達は、ターゲット市場セグメントの顧客とのインデプスインタビューのやり方をクライアントに指導しています。当社のクライアントの中に、狙いたい市場が多数あるものの、最も有益なものが分からないという事業がありました。このクライアントは高度なリサーチレポートを入手しており、そのレポートには、市場Xには何百万ドルものポテンシャルがあると記載されていました。しかしそのクライアントは、市場のトレンド、主要プレイヤーなどの各種インサイトを有していませんでした。そのため、私はクライアントにまず幅広い分野へのインタビューをGLGに依頼することを提案しまし
た。市場をスクリーニングして最も有望なチャンスを特定することで、情報を効果的にインサイトへと変換できるからです。そして、インサイトが得られた頃に再びクライアントとコンタクトを取り、インサイトのレベルを引き上げ、それらを活用して実務に応用するトレーニングを実施しています。
意思決定において、定量的なインサイトはどれぐらい重要でしょうか。
定量的なインサイトには、非常に価値があります。例えば、ある企業が特定の市場向けに新製品を開発したいとします。ブルドーザー用の新しい油圧シリンダーを作ろうとします。その仮説は、「この新しいシリンダーは、漏れが少なく、動作音が非常に静かなので、お客様に喜ばれるだろう」というものです。定性的なインタビューだけでは、確証バイアスが生じる恐れがあります。インタビューを何度か行い、最後の1回で「シリンダーの音が静かだと嬉しい」と何気なく言った人がいました。ああ、まさに私たちが聞きたかったことだ!」と。しかし、それは本当に証明になるのでしょうか?そうとは限りません。
この会社のケースでは、バイアスをかけずに顧客のニーズに優先順位付けする方法が必要です。私であれば、この会社に、顧客にいくつかの項目について、重要性と現在の満足度を1~10で評価してもらうことを提案するでしょう。騒音レベルはどの程度重要ですか?現在の騒音レベルにはどの程度満足していますか?私たちが探しているのは、重要度が高く、現在の満足度が低い項目への顧客からのフィードバックです。これは、エビデンスに基づくインサイトです。しかし、この評価項目のリストは、最初に行った定性インタビューなしでは作成できなかったでしょう。
意思決定者が無意識に組織の前例に頼って判断を下していると感じることはありますか?また、そのような衝動的な判断を避けるべき状況も教えてください。
これは誰しもが経験することでしょう。誰もが、自分の所属する組織や個人的な知識に頼って判断を下しているはずです。決断を迫られた人間が無意識に見せる反応は、このような身近な知識に頼ったものです。この状況を切り抜けるのに頼れる経験知はどのようなものでしょうか?また、企業ではこの状況に通常どのように対処しているのでしょうか?こういった無意識の反応は必ずしも悪いわけではありません。ただし、衝動に駆られるままに反応し続けてはいけません。物事に対処する際、自然な反応から始めることに問題はありませんが、衝動に従って完結させてはいけません。ここで、情報を疑うという作業が必要になります。つまり、衝動的に浮かんだアイデアは何に由来するのか?なぜそのアイデアが有効だと思ったのか?そのアイデアをどのように適用するのか?といった内容に自問自答する必要があるのです。
一例をご紹介しましょう。エリック・リース氏の著書『The Lean Startup』は、一読の価値がある良書です。製品デザインや実用最小限の製品について非常に詳しく書かれています。あるB2B企業がこの本に価値を見出して、同書のアイデアを浸透させるための大規模なトレーニングを35,000人に実施しました。この企業は同書の内容を何の疑問も抱かず文面通りに受け取っていましたが、実はこの本は、一般消費者向け製品(B2C)に関する内容だったのです。本来は、まずB2Bクライアントと深い対話の機会を設けてニーズを理解するよう指示すべき場面だったにもかかわらず、この企業は、従業員に実
用最小限の製品を至急納品するよう指示してしまったのです。その結果、この企業はニーズをまったく捉えていないプロトタイプを大事なB2Bクライアントに納品して、怒りを買ってしまいました。大事なクライアントなのですから、しっかりと寄り添って意見に耳を傾け、的確な質問を投げかけることが大切です。こうして、クライアントからインスピレーションを得たプロトタイプを納品すべきです。
この例を参考にすると、まずは大量の情報を吸収し、そこから徹底的に情報を吟味してインサイトへと進化させるのがポイントだということが見えてきます。もちろん、簡単なことではありません。直感的に正しいと思ったアイデアを疑い、インサイトがまとまった形になるまで曖昧な状況に動じず、新たな情報が出るたびにこの作業をひたすら繰り返す必要があります。大変ではありますが、得られる結果も大きい作業です。
最後にインサイトについて、何かご意見があればお聞かせください。
インサイトを得ることは大変な作業です。だからこそ、私たちの多くは情報をインサイトに変換するプロセスに力を注いでいないのです。重要なのは、できるだけ多くの関連情報に触れ、それをインサイトに変える努力をすることです。その過程では、他者の専門的な知見に触れることも少なくありません。一過性のものと考えてはいけないと思うのです。複合的な効果があるのです。インサイトに変換する情報が増えれば増えるほど、新しい情報をインサイトに変換する効果も効率も上がります。それは、これらの新しいチャレンジに適用できるフレームが確立されていくからです。
To learn more, read GLG’s Insights vs. Information: Why Only Insights Have Impact guide.
Dan Adams氏について
Dan Adams, founder of The AIM Institute, is the author of New Product Blueprinting, the Awkward Realities blog, and the popular 50-video series B2B Organic Growth. He is a chemical engineer with many patents and awards, including a listing in the National Inventors Hall of Fame. Dan has taught his B2B innovation methods to tens of thousands of B2B professionals globally and lectured at many leading universities, and he is a popular industry keynote speaker.
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