ヘルスケアリーダーシップサミット2021

ヘルスケアリーダーシップサミット2021

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新型コロナウイルスが猛威をふるう中、GLGのヘルスケアリーダーシップサミット2021が開催されました。記録的なスピードでのワクチン開発からテクノロジーの加速化、リモートの環境の中での連帯感の維持など、業界と社会は前例のない課題と飛躍的進歩に直面しています。復興して国境を再開するあたり、私たちは、より包括的で、革新的で、責任のある「ニューノーマル」を創造することができるのです。

GLGインスティテュートの2021年ヘルスケアリーダーシップサミットでは、「米国のヘルスケア事情:価値の再定義」や「医療の利用格差への対応」などのセッションが開催され、ファイザー社の元会長兼CEOのジェフ・キンドラー氏、米国の元グローバルエイズ調整官のマーク・ディブル氏、米国食品医薬品局(FDA)の元主席副長官兼CIO代理のエイミー・アベルネシー氏が登壇しました。また、サミットで行われた公開討論会では、次世代のヘルスケアの有効性を高めるために連携してコミュニティーを広げる方法について議論しました。

本記事は、これらのセッションの一部と重要な論点を抜粋してご紹介します。

 

取締役会のダイバーシティにおける隠れた障壁

  • イレーネ・チャン・ブリット氏(Amica Senior Lifestyles社取締役会長、ペパリッジファーム社元社長)
  • ロン・ウィリアム氏(Aetna社元会長兼CEO、アメリカン・エキスプレス社主任取締役、ボーイング社、ジョンソン・エンド・ジョンソン社取締役)
  • シェナーズ・スリマン氏(医師、経営学修士、哲学修士、アレクター社社長兼COO、テンエックス・ゲノミクス社、ウルトラジェニクス社社外取締役)

イレーネ・チャン・ブリット氏は、ほとんどの業界と同様にヘルスケア業界も役員の多様化に努めているが、女性の参画は拡大しているものの、人種の多様化はこれに追い付いていないことを紹介しました。まだかなりの努力が必要とされています。

シンディ・ベイヤー氏は、多様性はビジネスの必須条件であると強調しました。ブルックデール・シニア・リビングは、44%が女性、11%がマイノリティのリーダーで構成されるリーダーシップチームを構築しました。これを達成するために、同社は取締役会レベルで多様性の構築を開始し、そのプロセスをシニア・リーダーシップ・チームにまで浸透させました。シンディは、多様性の構築は必ずしも容易ではないが、企業はすべての人に平等な機会を与えなければならない、と話しました。ブルックデール社では、履歴書のブラインド化や無意識の偏見に関するトレーニングなど、多様性を実現するためのさまざまな方策を行っています。

ロン・ウィリアム氏は、取締役会に多様な視点がないと、しばしば間違った決定を下すことになると見解を述べました。企業は限定的な応募資格を広げる必要があります。同氏は、警察部隊で以前使われていた禁止要求事項を紹介しました。それによると、応募者は身長が180cm以上でなければなりませんでした。そのため、他の要素については大きく貢献できた背の低い候補者が除外され、部隊の人材や視点が制限されていました。取締役候補の評価に従来使われていた要求事項を広げることにより、人材と多様な視点の両方を豊かにすることができます。その結果、社員はさらなるスキルや経験を積み重ねることができ、ひいては、経営幹部の能力を高めることにつながります。

シェナーズ・スリマン氏は、完璧な取締役候補というものは存在しないと指摘しました。15個の資格を持つ候補者は、探しても永久に見つからないでしょう。企業は何の解決を目指しているのか、正直になる必要があります。多様性の条件を備えた中で最も優秀な候補を採用することに関心があるのであれば、他の条件には目をつぶる必要があることもあります。

 

リーダーシップのレッスン:ジーニー・リベット氏へのインタビュー

ロシュ・ドリヴー(GLGインスティテュート会長ピエール・ファーブル社、オックスフォードバイオメディカ社取締役会会長UCB社元CEO兼会長)

ジーニー・リベット氏(ユナイテッドヘルス・グループ社元エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント、UnitedHealthcare社、Ingenix社、Optum社元CEO)

このセッションでは、ロシュ・ドリヴーが、ジーニーヌ・リヴェットに、成功するリーダーシップの考え方について話を岡がいました。ジーニーヌ氏は、ユナイテッドヘルス社ででの在職期間、ヘルスケア事業を大きく成長させました。彼女が入社した当時、ユナイテッドヘルス社の社員数はたった1,200人で、株価は2ドルでした。買収によって会社を成長させることができたのは、会社を統合するための一定のプロセスを確立し、従業員とコミュニケーションをとることができたからです。

ジーニーヌ氏は、「6つのF」という、勝利の文化を構築するための重要な原則を紹介しました。

  • Facts(ファクト/データを重視する)
  • Fast(スピード/迅速な意思決定)
  • Focused(集中/中核部分以外の活動の優先順位を下げる)
  • Flexible(柔軟性/規制、技術など変化への柔軟性)
  • Friendly(親しみ/社員、顧客、パートナーにとっての親しみやすさ)
  • Fun(楽しさ/仕事を楽しくする)

 

イノベーションを促進し、変化に影響を与える

  • マイク・ウォームート氏(Established Pharmaceuticals社、アボット社元エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント)
  • デニス・トーレス氏(bluebird bio社取締役、ジョンソン・エンド・ジョンソン社元戦略および事業変革主任役員)
  • マイケル・パーマー氏(エトナ社元イノベーション&デジタル主任役員)
  • ナンシー・ミラー・リッチ氏(メルク・アンド・カンパニー社グローバルヒューマンヘルス事業開発およびライセンス、商業評価、戦略、商業サポートおよびDXデジタル担当元シニアヴァイスプレジデント)

真のイノベーションは変化につながりますが、多くの組織ではイノベーションと変化の両方が困難であることが多い。制度が確立されている組織では両方に抵抗しがちですが、それは克服すべき弱点です。マイク・ウォームート氏は、リーダーは、何がイノベーションを成功させる妨げになっているのか、自分自身と正直に話し合うべきだと意見を述べました。あなたの会社の文化はイノベーションをサポートしていますか?イノベーションが失敗するとどうなるのでしょうか?保守的な考え方に戻ってしまうのを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?

デニス・トーレス氏は、コロナ禍が、機敏に適応する企業の成功をどのように加速したのか、また、硬直化によって自らの破滅を加速させた企業について考察しました。そして、イノベーションとはコンセプトと自分自身のリーダーシップのあり方を試すことだと強調しました。失敗は許容するが、無能は許さないという文化の確立が必要です。

マイケル・パルマー氏は、デジタルソリューションがイノベーションに果たす役割について、アイデアを行動に移すにはキーパーソンからの同意を得る必要があると強調しました。この賛同がなければ、アイデアがあっても運用可能にする方法が分かりません。例えば、イノベーション課題を作ったり、「年間最優秀イノベーター」をノミネートするなど、人々を引き込んでモチベーションを上げる方法はいろいろとあります。

ナンシー・ミラー・リッチ氏は、コロナ禍のような危機がどのようにイノベーションを引き起こしうるかについて議論しました。リソース上の制約や大幅な予算削減などの困難な状況は、既成概念にとらわれない思考への強力な動機付けとなります。経営幹部は、コロナ禍で生まれたヘルスケアイノベーションをさらに発展させるために、ペイシェントジャーニーの全体を理解する必要があります。差別化した製品を確実に提供するには、医師、患者などの主なステークホルダーの立場に立って考えることが必要です。

 

コロナ禍後の世界における企業の責任

  • ファブリス・エンダーリン氏(UCB社元人材および企業評価担当主任役員)
  • アンナリーザ・ジェンキンス氏(FasterCures社取締役、メルク社元研究開発担当エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント)
  • ジェフ・ホフマン氏(Conference Board ESG Center、コーポレートシティズンシップおよび社会貢献活動部門長)

ファブリス・エンダーリン氏は、企業がヘルスケア業界の中核的な目的を再発見するために、新型コロナウイルスがどのように役立ったかを語りました。ヘルスケア業界は、環境とグローバルサプライチェーンにどう影響するかを考える責任があります。ヘルスケア企業も、グローバルな臨床開発を実施して全ての患者に公平な利用を確保するさまざまな方法を検討することが求められています。

ジェフ・ホフマン氏は、大企業で働く人は一握りだという事実を指摘しました。では、比較的小規模な機関は、どのようにヘルスケア業界の問題に変化をもたらすことができるでしょうか?ヘルスケア企業は規模にかかわらず、社会目的と事業目的を同一視すべきであるとのべました。

ロブ・ペレス氏は、企業の社会的責任(CSR)を社会的チャンスだと考えています。「責任」という呼び名が負担を感じさせるのです。目的に挑戦するのは、世界をより良い場所にするチャンスなのです。ヘルスケア業界の企業のミッションには目的が組み込まれていますが、それだけでは十分ではありません。コロナ禍は、公平性、アクセス、人種、社会正義をめぐる問題を深刻化したにすぎません。目的に挑戦する企業は、関心のある問題に労働力を投下し、財務上の成功を推進して、世界をより良い場所にすることができるのです。

アンナリーザ・ジェンキンス氏は、年間約20億人が基本的な医薬品を利用することができないことを伝えました。さらに、毎年、数十億の薬が使用されずに廃棄されています。私たちは株主に対して義務を負う現代の企業市場経済の一部ですが、より広い目的とのバランスを取る必要があります。正しい価値観を持つ組織の構築が必要であり、それはリーダーシップから始まります。

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GLGインスティテュートは、プロフェッショナル育成を促進するために上級管理職が業界の垣根を越えて専門知識を共有するコミュニティーです。GLGインスティテュートでは、1対1の会合やヘルスケアリーダーシップサミットなどのイベントを通じて、GLGインスティテュート会員のアドバイザーとなる世界最高の経営者、リーダー、政策立案者を募集しています。

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