ジェネレーティブAI:法制化か自己規制か?

ジェネレーティブAI:法制化か自己規制か?

Read Time: 6 Minutes

ジェネレーティブAIは、グローバルブランドにとって有望であると同時にリスクも抱えています。もちろん、宿題の手助けを求める大学生にとっても同様です。簡単に定義すると、ジェネレーティブAIとは、大量のテキストを処理できる機械学習の言語モデルに基づいて、テキスト、画像、音声など、さまざまなタイプのコンテンツを作成することです。このコンテンツは、人間が作成したように見せることができます。

ChatGPTのような新しいツールによって、ジェネレーティブAIはより利用しやすくなり、その最新版は多くのビジネスセクターに大きな影響を与えることが予測されています。一方、各国政府がAI技術の「説明責任メカニズム」を模索する中で、AIの普及には規制の不安がつきまとっています。

AIと機械学習の専門家で、ジェネレーティブAIを使ったビジネスアプリケーションを構築しているムケシュ・ダラル博士に、GLGのテレカンファレンスでジェネレーティブAIの事業や規制への影響、今後の予測についてお話しいただきました。本記事は、テレカンファレンスを一部抜粋し、要約したものです。

 

新たなAIビジネスモデルについて、インサイトを共有していただけますか?

AIビジネスモデルは急速に進化しています。AIが利用できるデータが増え、一方で計算コストは低下しています。そのため、多くの企業が注目するようになりました。典型的なAIプレーヤーではないAIブランドやベンダーが、AI機能でサービスを強化しています。NVIDIAやQualcommのようなハードウェアブランドは、AIのユースケースに対応したハードウェアを製造しています。AmazonやMicrosoftのようなパブリッククラウドを提供する企業は現在のサービスにAIを追加し、新しいAIベースのサービスを作り出しています。MicrosoftやSnowflakeなどのデータベース企業は、ユースケースをサポートするためにデータ機能を強化しています。

新しいブランドもAIに特化したサービスを作っています。DatabricksはAI向けのデータサービスを作り、Snorkel AIはAIのトレーニングデータセットのラベル付けを可能にしています。OpenAIなどの会社は、GPTのような汎用的で事前学習されたモデルを作っており、Siemensは業界特化型のモデルを作っています。

 

ジェネレーティブAI技術における知的財産(IP)および盗作リスクとはどのようなものでしょうか?

最大のリスクの1つは、音楽、映像、テキストが著作権で保護されている素材に酷似していることがあることです。これは明らかな著作権法違反です。もう1つは、学生がジェネレーティブAIシステムを使って宿題をこなしていることです。

 

これを解決するための新たなソリューションはありますか?AIコンテンツに電子透かしを入れることに対する課題は何でしょう?

ウォーターマーク(電子透かし)は、コンテンツがAIによって生成されたかどうかを検出することができます。これは難しい問題で、ほとんどの人が解決不可能だと考えています。AIが生成したすべてのコンテンツに確実にウォーターマークを入れることは不可能です。技術は進化し、その技術を侵害する人間も進化します。それは、完璧なソリューションがない、いたちごっこの状態なのです。

もう一つのソリューションは、情報開示です。ジェネレーティブAIのコンテンツを使う時は、そのことを開示するのです。これが義務化されれば、うまくいくかもしれませんが、これに違反して見つからないでいる人が必ず出てくるでしょう。

 

現在の米国のAI規制についてお話しいただけますか?

連邦政府は、中国のような国々と比較して、AIの革新を遅らせたり、米国を弱い立場に置いたりするような規制を課すことに消極的です。米国のAI規制は州ごとに管理されています。カリフォルニア州は、ジェネレーティブAIの規制を先導しています。顔認識のような特定の機能については規制があり、米国内でそれを禁止している管轄地域もあります。

もう1つの例として、ニューヨーク市の学校で禁止されているChatGPTがあります。しかし、いつまでそれが続くかは不明です。なぜなら、ChatGPTが強力なツールになると主張する教育者もいるからです。実際にChatGPTの利用を推奨している大学もあります。

 

欧州のAI規則をどう評価しますか?

欧州連合(EU)は、EU加盟国全体で適用される規制を作成しています。この規則は2022年12月に採択されましたが、ドイツなどの国は改善を望んでいます。どのくらいで施行されるかは明確ではありません。ヨーロッパの2つの標準化団体が、AI規則を適用できるように明確に規定しています。

他のアプリケーションは高度に規制されるでしょう。例えば、ある企業がAIを使って求職者をスキャンしているとします。AIはバイアスを導入する可能性があり、特定の応募者が不利になる可能性があります。

 

画像、テキスト、アート作品など、ジェネレーティブAIのすべてのセグメントに出現する課題にAI規則が対応するとお考えでしょうか?

ジェネレーティブAIは、AI規則が対応できる範囲を超えて急速に発展しています。ChatGPTは想定されていなかったのです。AI規則ではカバーできないリスクもありますが、標準化団体が詳細を作成する際に取り入れるかもしれません。様々なリスクに対応できるように進化する必要があります。

 

異なるセクターや用途を比較した場合、どのような規制が必要でしょうか?

これは物議を醸すトピックです。専門家の間でも意見が分かれています。製品の安全性や名誉毀損に関する既存の規制がいくつかあり、それらをAIに適用すべきです。既存の規制をまずAIに適用するのが理想的です。

現在の規制に基づいて新たな弊害が生まれる場合もあります。例えば、米国通信品位法230条は、インターネット・プラットフォームが出版者として扱われないように保護しています。私がFacebookで誰かに対する中傷を投稿した場合、Facebookは出版者ではないので、法的負担は私にあります。それは更新が必要です。

 

AI技術が監査市場に与える影響をどのように捉えていますか?

AIは企業にとって明らかにイネーブラーであり、リスクでもあります。企業がAIを導入すればするほど、リスクは増大します。企業がどの程度リスクにさらされるのか、それをどのように軽減するのかを理解することが重要になるでしょう。それはAI監査業界が成長する可能性を示唆しています。そしてそれは、AIだけでなく、データも対象となります。監査範囲には、AIの活用を推進するために使用されるデータも含まれることになります。

すでに監査の専門家である会計監査人は、AIにも対応することになるでしょう。監査事業の中で最も急成長するセクターの1つになるかもしれません。デロイトやプライスウォーターハウスクーパースは、コンサルティング事業であるため、データ活用やAIに関してすでに先を行っており、その分野でのリーダーになる可能性があります。EYやKPMGといった他の会計監査法人も、AIやデータ監査に注力するよう事業を進化させるでしょう。

 

ジェネレーティブAIによるメディアやエンターテインメント業界の変化について、どのようにお考えでしょうか?

ジェネレーティブAIは、とてつもない激変を引き起こすでしょう。メディアやエンターテインメント企業は、新しい映画、脚本、歌など、新しいコンテンツの生成に依存しています。従来、多くのプロフェッショナルがそのコンテンツを作り、業界は多額の報酬を得てきました。かつてから、プロでない人達もコンテンツを作っていましたが、クオリティは低かったです。YouTubeに投稿された私のホームビデオは、スピルバーグの映画とは似ても似つかぬものです。

ジェネレーティブAIでは、品質が急速に向上し、プロによるコンテンツと区別がつかないこともあります。AIツールのコストは下がり、差別化要因はマーケティングやプロモーションになるかもしれません。他の結果を招く可能性もあります。プロフェッショナルやアーティストの雇用は減るかもしれませんが、雇用された人たちの給料は上がるでしょう。今後数年間は、大混乱が予想されます。

 

この技術がアーティストにもたらす脅威に対して、効果的なソリューションは何でしょうか?

アーティストは、自分の評価と仕事を維持する方法を見つける必要があります。さまざまなタイプのコンテンツに注力し、そのコンテンツを宣伝し、生産量を増やしていく可能性があります。例え単価が下がっても、それを量で補えます。1人のアーティストが、毎日、10本のコンテンツ、10本のビデオを生成すれば、1年間に何千ものコンテンツ資産を生み出すことができます。

 

新興プレーヤーについての展望を教えてください。

クラウドプロバイダーは、AIベースの収益を生むサービスをどんどん追加したり、既存のサービスにAIを追加して収益を上げたりしていくと思います。Amazon、Google、Microsoftのような企業は、AIの導入で利益を得るでしょう。それらの企業はパブリッククラウド上でAIを展開し、短期的な優位性を持つでしょう。短期的な優位性を持つ他の組織としては、OpenAIなどのAI機能を作成および展開するためのツールを提供する企業があります。

データ会社はAIとデータクラウドを使う可能性があり、現在のパブリッククラウドベンダーと競争することになるでしょう。これらのモデルには不確実性があります。進化していくでしょうが、誰が勝つかは不明です。

激動の時代となりそうです。規制が増え、リスクも増えます。短期的にそのリスクにどう対処していいのか分からなくなるでしょう。5年後に振り返った時、AIがあったからこそ起きた成長に驚嘆することでしょう。


ムケシュ・ダラル博士について

ムケシュ・ダラル博士は、AIおよび機械学習の専門知識を持ち、GPT-3とDALL-E-2を用いたビジネスアプリケーションの構築に注力するAIDAAの創設者兼CEOである。以前は、Stanley Black & Deckerで、アナリティクスと自動化戦略をリードする最高AI責任者、ボーズ株式会社で、AI&データのグローバルヘッドおよび最高アナリティクス責任者を務めた。それ以前は、Charles River Analyticsで首席科学者を務め、BAE Systemsでは主任科学者としてデータサイエンスと機械学習の研究開発をリードした。さらに、Big Dataの最高経営責任者、Webtrendsの主任アーキテクト兼科学者も務めた経験があり、人工知能の博士号も取得している。


このテクノロジー業界の記事は、GLGテレカンファレンス 「ジェネレーティブAIの規制:法制化か自己規制か?」からの抜粋です。テレカンファレンス全文のトランスクリプトは、GLGライブラリーのご購読でご覧いただけます。また、ムケシュ・ダラル博士や、その他のテクノロジー業界の有識者へのインタビューも実施可能です。お気軽にお問い合わせ下さい。


テレカンファレンス中に聞いた、その他の質問

  • いくつかの新しいAIビジネスモデルついてインサイトを共有していただけますか?
  • これらのビジネスモデルの中長期的な持続可能性をどのように考えていますか?
  • 知的財産および盗作リスクとはどのようなものでしょうか?それがジェネレーティブAI技術全体への脅威であると考えますか?
  • そのような問題を解決するための新たなソリューションがありますか?電子透かしAIソリューションの課題は何ですか?
  • 米国における現在のAI規制についてお話しいただけますか?
  • EUのAI規則をどう評価しますか?
  • EUのAI規則は、すべてのジェネレーティブAIセグメント(画像、テキスト、アート作品など)に出現する課題に対応できるでしょうか?
  • さまざまな政府機関による異なるアプローチの長所と短所は何ですか?
  • 異なるセクターや用途を比較した場合、立法措置や業界の自主規制など、どのような規制が必要でしょうか?
  • AI技術がAI監査市場に与える影響とは何でしょうか?
  • AI監査市場の状況や主要プレイヤーから判断すると、何が競争優位になり得るでしょうか?
  • ジェネレーティブAIによるメディアおよびエンターテインメント業界の変化について、どのようにお考えでしょうか?
  • ジェネレーティブAI画像、合成、音声テクノロジーなどの台頭により、この技術がアーティストに与える脅威に対して、有効なソリューションは何でしょうか?
  • 企業は、AIに関連するリスクを背景に、ジェネレーティブAIの導入を成功させるための準備ができているでしょうか?
  • 業界の課題を考慮した上で、新興プレイヤーやビジネスモデルの持続可能性について、短中期的な展望をお聞かせください。

ニュースレター登録(無料)

業界の最新動向、無料ウェビナー情報、活用事例などをお届けしています。(メールは英語です。)