真の顧客ニーズを理解するための、3つの調査手法

真の顧客ニーズを理解するための、3つの調査手法

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マーケットリサーチ方法を理解するために、架空のオンラインマッチングサイト「Go Love Go」について考えてみましょう。

マッチング相手に不満を持つ複数のユーザーからのクレームを受け、Go Love Goのチームはマッチングアルゴリズムに使用するデータを再評価しています。幸運なことに、この問題はマーケットリサーチの方法で解決することができます。なぜなら、恋人選びは商品やサービスを選ぶのと非常に似ているからです。

自分で知っていますが、デート相手を探すとなると、自分にとって一番大切なことを軸として、いくらかは妥協する必要があることもあります。例えば、心から笑わせてくれる人であれば、趣味が違っても問題ないかもしれません。自分の希望やニーズに十分合った人が見つかったら、その人と真剣に交際します。選択肢を評価した後で選んだという訳です。

マーケットリサーチの真髄は、人々にとって本当に重要なのは何かを把握することです。ビジネスの世界では、顧客を理解し、商品とサービスの価値を高め、究極的には成長とイノベーションを推進するために、さまざまな方法を利用できます。このような方法は、ブランド嗜好、顧客満足度、セグメンテーション調査に加え、商品開発調査における重要度を明らかにするために役立ちます。では、どのように正しい情報を収集するのでしょうか?マーケットリサーチで情報を収集する手法はいくつかあり、得られる情報の種類は多岐にわたります。

以下に、顧客にとって何が重要かをより良く理解するための3つの手法をご紹介します。

 

スケール評価

人々にとって何が重要かを把握する最もシンプルで、おそらく最もよく知られた方法は、シンプルに質問することです。評価スケールを使用し、属性の重要度を回答者に直接評価してもらいます。簡単に収集でき、場所はほぼ不要で、解釈に高度な統計学や統計的知識も必要ありません。ただし、欠点がいくつかあります。

Go Love Goでこの手法を使用することを想像してください。ユーザーが最も重要視する恋人の属性を特定するのに役立つアンケートを実施し、「魅力」「常識」「政治思想の一致」などを5段階で評価してもらうとしますす。(「まったく重要でない」を1、「非常に重要」を5)

(設問:以下の項目は、恋人を選ぶ際にどの程度重要ですか。)

問題は、回答者が全ての項目を非常に重要だと評価する傾向があることです。実際には、政治思想が違ってもユーモアのセンスが良ければデートできるユーザーもいます。ただ、妥協を強いられなければ妥協することはありません。

商品の特長の重要度を評価するとなると、高い評価が選ばれがちです。これは、回答者は重要度が低いと評価することで、その特長が完全になくなるのを恐れるからです。最安値で最高解像度のノートPCを選べるのであれば、それを選ばない人はいません。しかし、ノートPCを実際に買いに行くときは、提示される選択肢から選ぶ必要があるため、進んで妥協することもあります。

上のグラフのように、結果のばらつきはほぼなくなるため、これらのスコアではユーザーについて理解できることは多くありません。真に重要なことを解き明かすことはできず、グループレベルでの差別化もあまり見られません。Go Love Goの場合、区別できないと予測能力の欠如につながり、アプリはアルゴリズムを改善することができません。

「政治思想の一致」「教育レベル」「ユーモアのセンス」が全て等しく重要であれば、マッチング相手を決定するときにこれらを同じ重要度で扱うことになります。つまり、マッチングはカスタム度や特定性が低くなり、ターゲットを絞ることができません。商品開発においても同様に考えることができます。ノートPCの全ての特長が等しく重要であれば、企業は投資やマーケティングをする際に、商品特長に優先順位を付けることができません。全てが重要ということは、何も重要でないのと同じなのです。

MaxDiff法

マーケットリサーチで人気があるのはMaxDiff法です。これは実験的に設計された手法であり、回答者に属性間での妥協を強いることができます。一般的なMaxDiff法では、より大きな集合の中からひとまとまりの項目を回答者に示します。例えば、7つの属性のうち3つを一度に示し、重要度が最も高いものと最も低いものを評価してもらいます。各属性の相対的な重要度スコアを判別できるユーティリティスコアを抽出できるまで、この様な小さい集合体を十分に評価します。

(設問:恋人を選ぶときに以下の項目はどの程度重要ですか?以下の中から、「もっとも重要」「もっとも重要ではない」と考えるものを一つずつお選びください。)

Go Love GoでMaxDiff法を使用する場合は、まず、「魅力」「政治思想の一致」「共通の価値観」の3つの属性のうち、最も重要なものと最も重要でないものを回答者に選んでもらいます。例えば、ある人が恋人を選ぶにあたって、この3つのうち、「政治思想の一致」の重要度が最も高く、「魅力」の重要度が最も低いと回答したとします。次のグループでは、「金銭面」「魅力」「教育レベル」を提示します。

ここで「金銭面」の重要度が最も低く、「教育レベル」の重要度が最も高ければ、提示された属性のうち最も重要でない属性は「金銭面」だと分かります。最初の質問で重要度が最も低かったのは「魅力」で、今度は「金銭面」がさらに重要ではないと回答されたからです。これで、回答者が感じる属性の相対的な重要度を示す価値観が定量化されます。スコアが高いほど、重要度が高くなります。

MaxDiff法の結果は解釈が比較的簡単です。MaxDiff法では回答を区別し、多彩な結果を得られますが、真の意味で人々にとって重要なことの全貌は明らかにならないこともあります。

なぜなら、人々にとって重要なことの一部は、態度や行動、言葉で表現されないことがあり、はっきり認識すらされていない場合もあるからです。ビジネス上の決定を下すためにデータを活用するときは、人々の発言と行動や態度によって暗に明らかなことの両方の重要度を総合的に理解する必要があります。これらの情報は見つけずらいかもしれませんが、何が重要であるかという実用的なインプットを得るために必要なのです。

回帰分析

「派生した重要度」と呼ばれるものを捉えることで、より詳細な全体像を理解することができます。この手法は、ある商品に対する属性の関連性と、商品の実際のパフォーマンス(例えば、人々の感情、満足度、お勧めするかどうか)の関係を統計的に明らかにすることによって、潜在的な重要度を予想するために使用されます。「派生した重要度」によって属性を区別でき、自己申告で生じることがある明確なバイアスを取り除くことができます。

Go Love Goの文脈で「派生した重要度」を得るには、マッチングで相手を見つけた人に、1)相手が重要度の面で評価したのと同じ資質を持っていたか、2)相手にどれくらい満足しているかを質問します。

「派生した重要度」は、2つの変数間で観察される関係(例えば、属性の1つと満足度など)を説明する単純な相関係数で相関分析を実行することでも計算できます。相関関係の使用で難しいのは、他の全ての属性の満足度への貢献度は明らかにされず、調整されないということです。現実世界では、属性が単独で存在することはありません。

より良い方法は、満足度を結果変数、属性を独立変数とする回帰分析を行うことです。回帰分析の結果、各属性の独自の貢献度が示されます。回帰分析結果は、各属性と結果変数の関係の大きさと方向性(正または負)の両方を示します。この結果から相対的な重要度スコア(シャープレイ値)を計算し、属性の重要度をランキングすることができます。相対的な重要度スコアは0%~100%のため、説明と解釈がより難しい負の値についての懸念は不要です。相対重要度の計算結果を「派生した重要度」として使用します。

まとめ

実際に示された重要度評価だけに基づいてマッチングアルゴリズムを変更すると、「政治思想の一致」が最も強いマッチング指標になり、次が「教育」になります。重要度が最も低いのは「魅力」です。MaxDiff法ユーティリティスコアに基づいてマッチングアルゴリズムを変更すると、「魅力」が最も強いマッチング指標となり、「教育」の重みは減ります。派生した重要度だけでマッチングアルゴリズムを変更すると「魅力」と「教育」が最も重要になります。

Go Love Goは、MaxDiff法と相対的な「派生した重要度」の両方を4象限マップにプロットするすことで、最適化と優先順位を行うことができます。下の図に示されているとおり、「教育(Education)」の重要度はMaxDiff法では低く、派生した重要度では高いため、『見えない重要属性』となります。同程度の学歴(教育)は、パートナーに対する満足度につながるにも関わらず、デートする際に人々が重要性に気づかない属性です。

この結果により、マッチング決定時に「教育」の重みを優先させることで、最終的にマッチングの長期的な満足度を向上させることができます。反対に、「政治思想の一致」はMaxDiff法では重要度が高く、派生した重要度では高くありません。つまり、恋愛関係において「政治思想」は重要だと思われていますが、政治思想が似ているからより幸せな関係になるという訳ではありません。「政治思想」は実際にはそれほど重要ではないことが明らかになったため、「政治思想」のアルゴリズムの重みは低く設定することができます。

 

結論

MaxDiff法は、回答間の区別がほぼつかないことが多い基本的な評価と比べ、より示唆に富んだ結果を持つ有益な情報を提供します。ただし、MaxDiff法で明らかにできるのは人々が自己申告できる内容のみとなります。「派生した重要度」では、人々が必ずしも自覚していない隠れた好みを明らかにすることができます。MaxDiff法と「派生した重要度」を組み合わせると、人々にとって真の意味で重要なことの全体像をより把握できるようになります。これらの方法は、より高い効果を得るための重点分野を特定するのに役立ちます。

※この記事の全てのデータは、例示のみを目的としています。


クリスティーナ・トウォレク博士について

クリスティーナ・トウォレク博士は、計量的方法を実行するチームを率いるGLGのアドバンストアナリティクスディレクターです。心理学の博士号を持ち、リサーチ方法、サーベイ設計、統計学を専門としています。


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