世界は厳しい現実に直面しています。気候変動を防ぐための脱炭素化への投資という点で、私たちはいるべき地点から大きく遅れをとっています。世界はすでに、気候変動を経験しています。このことから、気候変動が悪化するにつれて、今後数十年の間に最終的に何が起こるのか?という疑問を抱かざるを得ません。
ここ数年、パリ協定が結ばれ、多くの先進大国が、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという非常に野心的な目標を掲げ始めました。しかし、こうした状況にもかかわらず、温室効果ガスの平均排出量は過去10年間のそれよりも増加し続けています。それはまだプラトー(横ばいの状態)にさえ達していません。排出は加速を続けており、停滞や減少どころか、いつ減速するのかをただ待っているだけなのです。1990年代を除いて、どの10年も前の10年より、温室効果ガスの排出量が増加し、大気中のCO2濃度が高くなっています。この点では一貫しています。
気候変動: 我々は今どこにいるのか?
気候科学者は通常、摂氏2度の気温上昇が避けられない大気中の二酸化炭素濃度を450ppmとしています。摂氏2度のというのは、気候科学者が壊滅的な気候変動と分類する傾向のある値です。これは、この新たな現実に適応することが難しくなる点であり、非常に高い費用がかかることになります。パリ協定は、この2度の気温上昇を回避するための約束であり、大気中の二酸化炭素濃度を450ppm未満に抑えるための約束です。
これを踏まえて考えると、現在の濃度は、約423ppmであり、毎年約2.5ppmずつ増加しています。このペースでいけば、2032年までに450ppmを突破する可能性が高いと言えます。
「地球温暖化の暴走」という概念もあります。私たちは通常、化石燃料が炭素の主な放出源だと考えています。しかし、膨大な量の炭素やメタンなどの温室効果ガスが、熱帯雨林やツンドラ地帯に閉じ込められています。地球が温暖化し、気温上昇が摂氏2度を超えてしまうと、その自然貯蔵庫に閉じ込められた温室効果ガスが放出されると予想されます。「地球温暖化の暴走」とは、温暖化の継続を防ぐために私たちが本当に何もできなくなる閾値に達することを意味します。
アマゾンの熱帯雨林は、おそらくあと数年で転換点を迎えるでしょう。農業目的の伐採や野焼きをやめたとしても、おそらく自然消滅してしまうでしょう。シベリアを中心とするツンドラ地帯では、すでに大量の雪解けが起こっています。したがって、気温上昇が摂氏2度を超えると、たとえ翌年にはガスの排出が正味ゼロになったとしても、現在大気中に隔離されているすべてのガスによって地球温暖化が続くと広く予想されています。
実存的危機
私たちは、これが実存的危機と呼ばれるのをよく耳にします。それは、人類が絶滅するという意味ではなく、過去1万年にわたり人類を繁栄させてきた条件がもはや存在しなくなるという意味です。私たちは少なくとも過去80万年間、摂氏2度の温暖化を経験していません。人類の文明が、定住や農業の開始といった定住行動を指すとすれば、それはせいぜい1万年ほどしか遡りません。つまり、気温が最後にそれほど温暖だった時期を見つけるには、かなり過去に遡る必要があります。私たちは現在、摂氏4度から5度の温暖化に向かう軌道に乗っており、最後に地球がそれほど温暖だった時期を見つけるには、何百万年も前に遡ることになります。
何をすべきか?
その結果を避けるためには、変化を起こさなければなりません。高い確率で摂氏2度未満の上昇にとどまりたいのであれば、直ちに排出量の削減を始めなければなりません。急速に削減を開始し、今世紀半ばまでには、毎年排出する量よりも多くの二酸化炭素を隔離する必要があります。今世紀末までに、排出量を100%削減し、さらに、現在の年間CO2排出量の約3分の1を毎年隔離する必要があります。
完全に脱炭素化するだけでは、もはや十分ではありません。化石燃料の排出をすべてなくすだけでは、もはや十分ではありません。現在、大気中には非常に多くの二酸化炭素が存在しており、摂氏2度未満に抑えるためには、過去の排出量の多くを逆転させる必要があります。
グローバル社会はまだその段階に達していません。主要な排出国でない一部の小国は行動を起こしていますが、中国、米国、EU諸国、インドといった世界最大の排出国は、今後どうなるのかをまだ検討中です。私たちは、摂氏2度未満にとどまるための脱炭素化に、十分な投資をしているとは言い難いのです。
気候変動のツケを払う
2014年に、国際エネルギー機関(IEA)は、温暖化を摂氏2度未満に抑えるためには、2050年までに脱炭素化だけで50兆ドルの資本を投資する必要があると計算しました。つまり、年間約1兆3,000億ドルという計算になります。良いニュースは、単純に太陽光発電と風力発電のコストが予想よりも早く下がったため、この金額は減少してきているということです。悪いニュースは、1兆3,000億ドルを達成できない年ごとに、全体の支出が年間約2兆ドルずつ増えているため、投資すべき金額も少し増えているということです。現在、私たちはまだその目標を達成しておらず、それに近づいてすらいません。そして、摂氏2度未満にとどまるために、脱炭素化に費やすべき資金のおよそ4分の1を費やしています。
特に昨年のインフレの懸念により、政府支出は過去のようにはいかないということが分かったことと思います。これは本当に、必須の目標を達成するための豊富な資金源を持っている民間セクターにかかっています。これには莫大な費用がかかるでしょう。
経済協力開発機構(OECD)は最近、脱炭素化を成功させるためには、この移行に世界のGDPの約5%を費やす必要があると試算しています。しかし、代替案はそれよりもはるかに悪いものであり、より保守的な試算では、もし気温上昇が摂氏2度に達した場合、またはそれを超えた場合、気候変動による損害は世界のGDPの約14%から15%になるということです。
ここに、大きな保険補償ギャップが見られます。保険会社が、自社の保険商品を提供するためにどれだけの財務能力が必要かを判断するために使用するモデルを開発する際、彼らは最終的に過去を見ています。気候変動の影響は今後さらに悪化することが予想されるため、保険セクターは現行のすべての商品に補償を提供するために、より多くの資金を必要とすることになるでしょう。
トリスタン・ブラウン氏について
トリスタン・ブラウン氏は、2018年8月より、State University of New York College of Environmental Science and Forestry(ニューヨーク州立環境及び森林科学大学)にて、エネルギー資源経済学の准教授の肩書きを持つ。それ以前は、エネルギー資源経済学の助教授であった。トリスタン氏は、エネルギー市場を専門とし、バイオ燃料およびバイオエネルギー市場に関する研究を行い、学術論文を出版している。
この記事はGLGのテレカンファレンス 「Climate Change(気候変動) 」から抜粋しています。テレカンファレンス全文のトランスクリプトは、GLGライブラリーのご購読でご覧いただけます。
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